WOMENCANFLY.COの連載「THE WAY」では、毎月海外で暮らす素敵な女性をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、シドニー在住の田代明日香(たしろ・あすか)さんです。元サッカー選手である旦那さんの移籍に伴い、シドニーから車で南に1時間半の都市、「ウーロンゴン(Wollongong)」へ移住しました。現在はシドニーに移り住み、今年、在豪7年目を迎えます。
シドニーへ移住後、明日香さんは現地の日系メディアでマーケティング兼営業として働き始めました。シドニーで発刊されている日本語のフリーペーパーでは、エッセイの連載も担当しています。2023年3月で連載60回を迎えた人気コーナーです。
普段からエッセイやSNSを通して、暮らしのなかの出来事や3人のお子さんの成長、自身の考え、時には悩んでいることなどを発信している明日香さん。今回は、明日香さんのキャリアや子育ての苦悩、オーストラリアでの挑戦、シドニー生活の中で変わりゆく家族や夫婦のあり方を話してもらいました。
「根拠のない自信」を「確かな自信」へ
大学卒業後、元日本代表のサッカー選手である旦那さんと結婚した明日香さんは、長い間「主婦」が本業でした。2021年にシドニーの日系メディアに就職したのが、最初の会社勤めです。
「結婚するとき、夫に『家のことに専念してほしい』と言われたので、フルタイムでガッツリ働いたことがなかったんです」
結婚以来、旦那さんがサッカーに集中するためのサポートと子育てが、明日香さんに任された大事な役割でしたが、キャリアを積まないまま年を重ねることに不安を感じていた明日香さんは、あくまで家庭を優先しながらも、できる範囲で仕事を始めます。
最初にチャレンジしたのは、ラジオパーソナリティの仕事です。もともと学生時代にレポーターとして活動し、制作にも携わっていた明日香さん。「ラジオだったらできるかも」と、婚約して暮らしはじめた茨城県鹿島市のラジオ局に突撃訪問。「ラジオをやらせてください!」と直談判し、二つ返事でOKをもらいました。
「ラジオは『なんでも好きなようにやって良いよ』と言われたので、他の番組と被らず、かつ、私が好きな洋楽の番組をつくりました。小さいラジオ局だったので、パーソナリティのほか、企画、構成、ゲスト選定、録音、選曲、キューをふるまで、すべて自分でやっていました」
その後も、ダンス講師やモデル、ライター、コーチングなどの仕事に挑戦し、時間をつくってヨガやフードマイスターなどの資格も取得します。
冒頭で紹介したエッセイ連載も、ラジオパーソナリティ同様、明日香さん自ら掴んだ仕事です。自らメディアに「私、エッセイ書けますよ!」と営業しに行ったのだそう。
「月一の連載は大変ですが、読者の方から感想を頂くと嬉しいので頑張って続けています」
明日香さんのキャリアを振り返ると、ラジオパーソナリティやエッセイ連載のように、自ら掴みにいった仕事もあれば、ダンス講師や親子モデルのように、企業や友人から依頼を受けて始めたものもあります。共通しているのは、どれもやってみれば「できた」ということ。
それは、明日香さんが自身の強みや得意なことを把握し、エッセイやSNSを通して、しっかりとブランディングしてきたからでしょう。自分のライフスタイルや経験、スキルを発信し続けてきたからこそ、明日香さんの魅力を活かせる仕事が集まってきたように感じます。
明日香さんは「根拠のない自信が大事」だと言いますが、「確かな自信」を得るには、たとえ根拠はなくとも、その自信を頼りにチャレンジを積み重ねることが大事なのだと感じました。
セカンドキャリアを見越し、オーストラリアへ移住
明日香さんは、今年でオーストラリア在住7年目を迎えます。最初の3年は、旦那さんが所属するサッカーチーム「ウーロンゴン・ウルヴス(Wollongong Wolves Football Club)」のホームタウンであるウーロンゴンで暮らしました。ウーロンゴンは、美しいビーチと熱帯雨林を有する自然豊かなまちです。日本人は少なく、サーフィンやサイクリングなど、アウトドアを楽しむ人に愛されています。
そもそも、海外チームへの移籍を提案したのは、実は明日香さんでした。
「日本国内にJリーガーって、本当にたくさんいるんです。選手たちは現役を引退すると、コーチやマネージャーに転向する人が多いのですが、既定路線のセカンドキャリアは夫にとって楽しくないんじゃないかなと。それなら他の選手と差別化しないといけないので、海外に挑戦したらどうかと提案しました」
ウーロンゴンで3年間を過ごした後、シドニーへ移住したのは、まさにセカンドキャリアを考慮してのこと。いよいよ現役引退が現実味をおびたとき、夫婦で話し合い、『元日本代表』の肩書きがより活かせるであろう、日本人が多く住むシドニーへの移住を決めました。
しかし、いくらセカンドキャリアの為とはいえ、3人のお子さんを連れての海外移住は一大決心だったはずです。
「確かに海外移住は大変でしたが、引っ越しに慣れていたのが良かったのかもしれません。サッカー選手は移籍が多いので、引っ越しも多いんです。最初は鹿島、それから山形、鹿島に戻って、神戸……というように、10回以上の引っ越しを経験しました。同じ家に住んだのは、長くて2年ですね」
引っ越しのたびに慣れ親しんだ家や街を離れ、新しい土地で一から暮らしを整えるのは骨の折れる経験でした。その苦労を何度も乗り越えてきたからこそ、日本に住んで得られる目の前の安定と、海外移住して得るであろう将来のワクワクを比べたとき、苦労することは承知のうえで後者を選ぶことができたのでしょう。
とはいえ、子どもたちはせっかくできたお友達とのお別れがいつも辛かったようで、別れのたびに泣いて悲しんでいました。その姿を見て、明日香さんは「いつかオーストラリアで過ごす日々が、彼らにとっていい経験だったと思えますように」といつも願っています。
現在、旦那さんはシドニーでサッカースクールを創業し、セカンドキャリアをスタートさせました。ユニークなセカンドキャリアは、日本のサッカー選手たちの励みにもなっているのだそう。話し合って決めた、オーストラリアでの人生第二幕。その決断を「良かった」と言えるものにするために、笑って、泣いて、走りながら、今日も家族みんなで奮闘しています。
英語は、伝わればOK!それが正解!
オーストラリア生活で苦労していることの一つが、英語です。
例えば、子どもの学校行事や送り迎えのとき。クラスメイトの親御さんと話そうとしても、英語が流暢でないので一歩踏み込んだ話ができません。気にせず積極的にいけばいいと頭ではわかっているものの、なかなかうまくいかないもの。こちらが気まずそうにしているのを察してか、話しかけてもらうことも減ってしまいました。
英語で苦労したのは、明日香さんだけではありません。
1番上の娘さんは、小学校4年生のときに日本の学校からオーストラリアの現地校へ転校しています。転校当初は英語がわからず、「授業についていけない」と泣きながら帰ってくることもあったのだそう。
その度明日香さんは、とにかく娘さんの話を聞いて励ましました。娘さんが楽しい学校生活を送れるよう、クラスメイトをお家に招いて誕生日会を開いたり、娘さんが好きなお絵描きに夢中になれるようiPadをプレゼントしたりもしたそうです。
オーストラリアに住んでいると、英語がうまく話せないもどかしさを感じる一方、英語が話せたら世界が広がることも、具体的に実感できるもの。明日香さんもお子さんも必死でした。
「オーストラリアには英語が母国語ではない人もたくさんいて、彼らの英語を聞いていると、文法がでたらめなこともよくあります。でも、自信満々に話しているんですよね。日本で育った私は、どうしても正しい文法を使わないとと思ってしまいますが、結局は伝わったら全て正解なんです」
明日香さんいわく、大事なのは「わからないことがあったら聞き返す勇気」と「楽しむマインド」なのだそう。「英語がわからないのに、よく頑張ってるよ!」と、自分で自分を褒めることも大事にしています。
ちなみに、あれだけ泣いていた娘さんはあっという間に学校に慣れ、小学校を卒業する時にはクラスの中心的存在になっていたのだそう。2人の弟たちも含め、今では3人とも流暢な英語を使います。今では子どもたちの姿に、「恥ずかしさは捨てて、どんどん英語を話していかないと!」と、明日香さんが励まされています。
シドニー移住で変わる、夫婦の関係
シドニーで暮らすなかで、明日香さんご夫婦にはいろいろな変化がありました。
1番大きな変化は、旦那さんが家事・育児に協力的になったこと。もちろん現役引退が大きな理由なのでしょうが、シドニーの子育て環境も影響しているようです。
「お父さんがお見送りやお迎えを担当している家庭が本当に多いんです。我が家も子どもの送り迎えは夫の担当ですし、週に一度はお弁当も作ってくれます」
また、旦那さんが「夫婦でご飯に行こう」と誘ってくれるようにもなったことも、変化の一つ。明日香さんは「もっと若いときにやってくれたら嬉しかった」と笑いながらも、夫婦で向き合う時間が増えたことを喜んでいます。
思い出すのは、2番目のお子さんがまだ小さかった時のこと。その日は雨のなか、弟をベビーカーに乗せて、お姉ちゃんを学校まで送っていました。明日香さんはレインカバーをかけたベビーカーを片手で押し、もう片方の手でお姉ちゃんと手を繋ぎます。娘さんには傘を持たせていましたが、両手がふさがっている明日香さんは傘もさせず、ずぶ濡れです。
「当時は『なんでも私がやらなきゃ』と必死でした。雨に打たれながら歩いていたら、なんだか涙が出てきて。信号待ちで止まっていたら、年配の女性が『あなた、よく頑張ってるわね』と背中をさすってくれて、涙が溢れたことを覚えています」
海外生活という大きなチャレンジには、夫婦の協力が欠かせません。だからこそ、旦那さんに頼れるようになったことは、明日香さんにとってもっとも大きく、大切な変化だったのかもしれません。
オーストラリアで暮らす人たちは、人生を楽しむのが上手だなと感じます。平日はしっかり働いて、休日はしっかり休む。まずは自分のライフスタイルがあって、そのうえに仕事があるという考えで生きています。
「週末前にメールを送るときには、 “Have a great weekend!” と書く習慣があって、それを読むたび、こういう心遣いや週末を楽しもうという姿が素敵だなと思います」
思い返せば、主婦時代は子育てに追われ、思うように働けず、常に喉が渇いているような状態でした。しかし、1番上のお子さんが高校生になり、少しずつ子育てのゴールが近づくのを感じる今、今度は「残りの時間で子どもたちに何をしてあげられるだろう」と考えるようになったといいます。
明日香さんは今、何をしたら自分は納得するのか、満足するのか、ハッピーなのかを、立ち止まってゆっくり考えているのだそう。求められることに応えることも自身を役立たせる一つの方法ですが、明日香さんはきっと、「これだ!」というものを見つけ、情熱を注いでいくのでしょう。旦那さんやお子さんたちに惜しみないサポートを続けてきた明日香さん。次は、明日香さんが明日香さんらしく輝く番です。
明日香さんの、次なるチャレンジもますます楽しみです。
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